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メタンハイドレートは「資源」ではない

月刊「エネルギーフォーラム」:2015年9月号
多事争論:「メタンハイドレートは物になるか」8月8日稿に、National Geographic図を付記

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メタンハイドレートは「資源」ではない
 メタンガスと水が低温、高圧の状態で結びついた一種の水和物、シャーベット状に地層に分散する固体、点火すると遊離メタンが燃えるので「燃える氷」の名がある。地球に広く分布、極域の永久凍土層、深海の堆積層など、日本近海では1000m程の海底下の地層に存在する。
 メタンハイドレートは以前から海洋地質学の研究課題、だがエネルギー資源と思う人は少ない、資源としては「質」が低すぎるからである。
 下図はNational Geographic・2005年掲載の「Resource Triangle」、gas hydratesとあるのがメタンハイドレート、大量だが低質、資源でないの意味、
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 しかし日本でメタンハイドレートは資源かどうか調ようと、調査委員会が九〇年代前半に立ち上った。関係企業、地質調査機関、大学などで構成され、私は委員長を務めた。調査項目はメタンハイドレートの文献に加えて、海外への調査派遣など、アメリカ東海岸のウッズホール海洋研究所、さらに西シベリアのガス田にも訪れた。ウッズホールでは地元フロリダ沖の海底斜面が詳細に調査されており、世界各地の海底、寒冷地凍土層の知識も豊富だった。メタンガスの存在量そのものは、通常ガス田より大量なことは知られていたが、それをエネルギー資源と思う人は少なかった。

 西シベリアのメソヤハ・ガス田では通常のメタンだけでなく、メタアンハイドレートから遊離したガスも含まれていると考える研究者がいた。フリーガスと呼ばれていた。このようにハイドレートには未知のことが多かった。資源に乏しいが日本である、経済大国の責務として率先してメタンハイドレートが資源かどうか検証したらどうか、海洋掘削も含めて百億円程度の国費を投じても良いのでは、と思われた。

国家プロジェクトとしての調査研究
 私は特にフリーガスの意義を知りたかった。メタンハイドレート層下の地温が高いゾーンに、遊離ガスが豊富に存在すれば在来ガス田と同じ技術で生産可能ではと考えた。
そして実際に日本近海にボーリング調査が実施された。だが大量のフリーガス・トラップは無かった。固体の広く分散するメタンハイドレートをガス化するには昇温、減圧などにエネルギーが要る、経済性は無いと、私は考えた。
 だがボーリングを含めた調査研究は、よくある公共事業のように長年継続された。メタンハイドレート・ムラと揶揄されようになった。関係者にとっては経常的な仕事となり、海洋調査船にはそのための装備も用意された。

 私は最初だけ関与したが、その後の国家資金の投入は膨大なものだった。しかし実質的な成果は期待はずれ、生産技術も確立しなかった。 忸怩たる思いで、科学的な論点整理を以下にご披露する。

 先ず通常のガス田との違いから説明する。ガス田も油田も基本的に同じ、馬の背のような盛り上がった「背斜構造」貯留層の上部のトラップである。そこに井戸を掘れば自噴する。そのトラップは断層封鎖でも良い。そして油ガス田の貯留層上位からガス、油、水と比重によって分級、濃集される。貯留層の圧力が自噴を促す。そのポテンシャツが低下すれば下部に水を圧入するなどする。
 この仕組みが固体のメタンハイドレートにはない。故にガス化の昇温、減圧などにエネルギーが必要となる。

「地球は有限、資源は質が全て」、エネルギー収支比が決め手
 人は自然の恵みで生かされている。だが地球は有限、「質」の良い資源には限りがある。この基本を理解しない人が多く、海水には有用資源が豊富、海水ウランと原子力の専門家も言う。海洋温度差発電も同様、膨大なエネルギーが要る。

 私は「資源は質が全て」と繰り返し述べている。だが多勢に無勢、一向に改善されない。そこで教科書的な話をする。エネルギーの「質」の評価にはEPR(Energy Profit Ratio)、「エネルギー収支比」がある。原理は単純、「入出力エネルギーの比」、つまりエネルギーコストである。その比は1.0以上が絶対条件、一般に文明維持には10以上が必要とされる。

 以前、カナダ永久凍土で遊離したガスをタンクに溜め、油井上で燃焼する動画がつくられた。連続生産に成功とNHKが大きく報道、そしてメタンハイドレートは「資源」となった。日本近海でも同様だが、投入エネルギー・EPRついては語られない。神話はこのようにして作られる。

「エントロピーの法則」を理解すると本質が見える
 「質」の評価は金属資源でも重要だが、近年日本では海洋資源大国と楽観論が広がる。心配している。紙面の都合で詳述しないが日本は根本的な国家戦略を改革すべき、それにはエントロピーの法則を理解するのがよい。
 膨張する宇宙、その一方向性は絶対、物理学でエントロピーの増大という。難しいようだが、これは経験則、その本質を理解すると、文明も含め全てが分かってくる。

 結論だが、分散するメタンハイドレートの濃集とは「エントロピーを減らす」こと、それにエネルギーが必要なのだ。そして最後の一言、「技術でエネルギーは創れない」。
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そしてご参考、http://oilpeak.exblog.jp/20216160
尚、この記事のもう一人の著者、松本良さん、明治大学特任教授は私が委員長を務めた調査委員会のメンバーでした。











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by tikyuu_2006 | 2015-08-24 01:35 | エネルギー、環境
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