太陽光発電買い取り制度、失敗は約束されていたのか、自然エネルギーの今後、戦略とは
メディアが報道 1)Wall Street Journal日本語版 2013年10月17日 【社説】新たな暗黒大陸─再生可能エネルギー政策で失敗する欧州 オバマ政権が米国を再生可能エネルギーの夢の境地へと向かわせる前に、欧州ではどんな様子になっているのか調査したほうがいいかもしれない。二酸化炭素の排出を伴うエネルギー源を風力や太陽光などと置き換えるという夢の実現に、欧州大陸は米国よりはるかに近づいている。そして、その夢は悪夢の様相を呈し始めている。 彼らは本質的に、電力を作ることなく、収入がほしいのだ。 すべての根っこにあるのは、欧州大陸のいわゆる再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)だ。これは1990年にドイツで始まった。固定価格買い取り制度は太陽光や風力による発電設備で作られた電気を一定価格で買い取ることを電力会社に義務づける制度で、買い取り価格は通常、市場価格を上回る。また他の方法で作り出された電力より優先され、風力や太陽光で発電された電気は真っ先に買い取らなければならない。 電力会社にこうした電気を買い取らせる──消費者には自腹を切らせる──ことによって、ドイツは総容量に対する再生可能エネルギーの比率を25%まで引き上げた。ドイツはこの割合を2020年までに35%、50年までには80%にしたい意向だ。ドイツほど野心的な国は欧州には他にない。しかし、欧州連合(EU)が大陸全体で目標とする再生可能エネルギーの割合もまた、20年までに20%にすることだ。 これらの風力・太陽光発電への助成金はこの4年間で欧州のエネルギーコストを消費者に対しては17%、電力産業には21%それぞれ上昇させた。しかし、これよりもっと脅威なのは、こういった指令が電力企業にもたらしている大混乱だ。特に石炭による火力発電や原子力発電といった旧式の発電所は伝統的に「ベースロード(基底負荷)」と呼ばれる電力を供給してきた。冷蔵庫や信号機など、現代の経済活動に年中必要な電力のことだ。これは消費者がまず使う電気だった。欧州が再生可能エネルギーに熱狂するまでは。 問題は、ある特定の瞬間に再生可能エネルギーがどれだけ生産可能なのか誰にもわからないことだ。太陽電池パネルを屋根に搭載したガソリン車を持っていると想像してほしい。必要なときに太陽エネルギーを使えるのではなく、それが供給可能なときにはいつでもエンジン出力に追加できるようになっている。 つまり、高速道路を時速60マイル(約97キロ)で走行している際に太陽が顔を出すと、アクセルから足を離さない限り、突然、車が80マイルで走りだすことになる。では、こういったエネルギーで経済全体の運営を試みていると想像してほしい。ただし、天候が変わる度にエンジンのスロットルを調整するのに何時間も何日もかかることを除いてだが。 電力会社は、かつては予測可能だった電力需要が、天候と全く同様に予測不可能な需要に取って代わられたことを経験してきた。天候が悪ければ、照明を維持するために発電量を増やす必要がある。しかし、再生可能エネルギーの優先順位が高いため、先を越される可能性に留意しなければならない。電力会社は依然として、高い固定費と資本ニーズを抱えている。だが、再生可能エネルギーの特権的な立場のせいで、電力需要は風とともに増えたり減ったりするのだ。 英エコノミスト誌によると、これらすべてが成長の足かせとなっており、この5年間で欧州の電力会社の時価総額を55%縮小させた。方針の変更を先週発表した電力会社のトップは、国が後見人になっているため、事業を続けることに満足しているかもしれない。風力や太陽光発電が不足したときに、その不足を補うために──納税者の負担で──待機するという立場だ。 しかし、これでは消費者と納税者は割に合わない。FITと再生可能エネルギーの強制的な買い取りを止めれば、エネルギー価格は下がり、欧州の産業が立ち直る一助にさえなるかもしれない。それが国家財政に1セントの負担もかけない成長志向の改革になろう。 2)毎日新聞 2014年10月12日 大規模太陽光発電:参入凍結 買い取り価格見直し 経産省「地方集中で送電網限界」 再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)を巡り、九州電力など電力5社が再生エネの新規受け入れを停止した問題で、経済産業省が大規模な太陽光発電設備の新規認定を一時停止する検討を始めた。経産省の想定以上に太陽光発電が地方に集中したことで、再生エネの拡大が送配電設備の能力の限界に達したためだ。経産省は太陽光の電力拡大を抑制し、風力や地熱など再生エネ全体のバランスを図るため太陽光の買い取り価格引き下げなどの制度見直しを急ぐ。【中井正裕】 経産省は2011年のFIT制度の策定段階で、太陽光発電の出力が10年代半ばに1000万キロワットを超えると見込んでいた。ところが、12年7月の制度開始から今年6月までの約2年間に導入された太陽光発電は、すでに1000万キロワットを突破。発電開始前を含めFIT認定を受けた太陽光は6896万キロワットと想定をはるかに上回った。 また、FIT導入以前に主流だった住宅用太陽光発電の拡大を想定していたが、新規導入は10キロワット未満の住宅用が240万キロワットにとどまる一方、住宅用以外が848万キロワットと急拡大。日照時間が長く、土地代が比較的安価な九州など地方に集中し、計画中の太陽光発電の出力が地域の全需要を上回る事態になった。 想定通りに住宅用が普及すれば、住宅の多い首都圏や関西圏など都市部で再生エネ受け入れ余地があった。ところが、地方に集中したことで、地方から都市への送電網を増強する必要に迫られた。送配電網の増強は年単位の期間と多額の費用がかかり、費用負担方法などの仕組みも未整備だ。 大規模太陽光が急増したのは、買い取り価格が高水準だったことも背景にある。FIT制度は再生エネ普及を軌道に乗せるため、制度開始から3年間は買い取り価格を高く設定している。再生エネの急拡大自体は狙い通りだが、大規模太陽光の価格は「政府の計算より事業者がもうかる価格設定だ」(電力業界)との指摘もあり、経産省は価格算定方法の見直しを迫られている。 3)週刊東洋経済 - 東洋経済オンライン 2014年10月13日 「電力会社にも、国にも、裏切られたような気持ちだ」 FIT法では電気の円滑な供給確保に支障の生ずるおそれがあれば、受け入れを拒める。再エネに冷や水浴びせる電力会社の契約中断 太陽光発電の買い取りを止めた九州電力。 九州電力が10月1日に福岡県で開いた事業者向け説明会。そこでは詰めかけた数百人の再生可能エネルギー事業者から厳しい声が相次いだ。九電による電力買い取りを当て込んで太陽光パネルに投資した個人事業主は、「投資が無駄になったらどうしようかと毎日不安。慰謝料は考えてくれるのか」と訴えた。 http://toyokeizai.net/articles/-/50377 4)日本経済新聞-編集委員 滝順一 2014/10/13 難しい問題だが、いずれ再エネに頼らざるを得なくなる。電力5社、再生エネ買い取りを制限 打開の道は、 九州、四国など電力5社が、再生可能エネルギーの受け入れを制限(保留)すると発表した。発電量をすべてを買いとると供給が需要を上回ってバランスが崩れ、停電などの恐れが出るためだという。買い取りを前提に太陽光発電所などの建設を進めてきた事業者や自治体ははしごを外された形で憤まんやるかたない。政府は年内にも対応策を打ち出す考えだが、この問題は原子力発電所の再稼働ともからむから、やっかいだ。 ■先日、買い取り保留の騒ぎが起きる前だが、ドイツの送電会社の担当者から話を聞く機会があった。発送電分離をしたドイツには4つの送電会社がある。そのうちの1社、50ヘルツ送電会社はドイツ国内の風力発電所の40%が、供給域内にある。 同社のクラウス・フォンセンブッシュ・エネルギー経済局長は「再生可能エネの拡大が送電網の拡充よりスピードが速いことが大きな課題だ」と話していた。日本と同じだ。ドイツでは再生可能エネは送電会社が買い取り、費用は託送料金(送電網の利用料金)に上乗せする形で最終的には消費者に転嫁されている。 変動する供給量に対応して需給をマッチさせるため、送電会社が水力や火力発電所をもつ事業者に対し調整用の発電を日々要請しなければならない。かつては送電網の状態を監視するだけでよかったが、供給力を「日常的に調整する複雑な業務が送電会社に課せられている」と言う。また2050年の国内の電源立地や構成のあり方を決め、必要な送電線の拡充を進めている。 再生エネの今後の導入見通しについては、電源構成の40%までなら、国外との電力のやりとりがない厳しいシナリオを仮定しても、蓄電池の大量設置がなしでも達成可能だとしていた。 地理的な条件や既存の送電網の様子が異なる日本とドイツを単純に比較することはできない。ただ既存のシステム活用と長期的な計画推進に着実に取り組み再生エネ拡大を目指す姿勢は、参考になるのではないか。http://s.nikkei.com/1qOtYAS 5)朝日新聞デジタル 2014年10月18日 (けいざい新話)再生エネにかける:4 固定買い取り制には頼らない見解も、 盛岡市にほど近い、人口3万3千人の岩手県紫波町。その中心部ではいま、仕事場と住居を集めた「コンパクトシティー」をめざした再開発が進む。7月末、地元の間伐材でつくった木材チップを燃やした熱を、まち全体に供給する木質バイオマス施設が動き出した。 チョコレート色の建物内のボイラーで約80度のお湯を沸かし、地区全体に張り巡らせた配管を通じて、町役場や保育園、新しく建った57軒の住宅にお湯と暖房を供給する。「吸収式冷凍機」でつくられた冷熱で、冷房にも使用できる。 「熱」は太陽光や風力とは違い、再生可能エネルギーを電力会社が高値で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)の対象ではない。利益をどう確保しながら運営するかが難しかったのだが、省エネや再生エネのコンサルタント会社「サステナジー」(東京)のトップ、山口勝洋(49)はこれを乗り越えた。 約5億円の事業費は信金から借りた。毎年の運営費や信金への返済は、お湯などを供給する施設から受け取る料金や環境省の補助金などで賄う。燃料となる木質チップを地元から買うなどして、地域振興にもつながる仕組みを整えた。 FITを活用した太陽光発電なども手がける一方で、熱供給もあえて進めたのはなぜなのか。山口は「エネルギー問題を解決するには、熱も活用し、エネルギー消費量自体を減らすことも必要だ」と、先を読む。 大学時代から環境問題に関心を抱いてきた山口は、まずは外資系の経営コンサルタント会社で働いた。独立後、最初に手がけた事業が、2004年に長野県飯田市で始めた「おひさまエネルギーファンド」。再生エネに投資する市民ファンドのモデルと言われるものだ。 市民から募った約2億円と同じだけの補助金をかき集め、投資の元手を2倍にした。これで、飯田市の公共施設の屋根に太陽光パネルを置いたり、美術館のエアコンを省エネ型に組み替えたりした。浮いた電気代分を飯田市などから継続的に払ってもらい、FITがない時期でも、一定の利益が出る仕組みを作り上げた。 「うちもメガソーラーをもっと手がけ、安定的な収入源を持つべきではないか」。FITが始まったころ、山口はある社員からそんな意見を受けた。だが「すでにあるビジネスモデルだけに頼るのではなく、まだまだ事業開発を進めるべき分野がある」と説得した。 経済産業省は、急増した太陽光の申請を抑える方向でFITの見直しに着手したほか、買い取り価格も切り下げる考えを示し、事業者を混乱させている。山口は言う。「FITは便利だが、それ以前から再生エネや省エネ事業が経済的に成り立つような工夫を見つけてきた。これからも、そんな方法を見つけていく」=敬称略(おわり)(藤崎麻里) 岩手県紫波町で開かれたシンポジウムで、自然エネルギーについて話す山口勝洋さんは、もったいない学会の仲間の一人です。 http://www.asahi.com/articles/DA3S11407622.html ------------------------------------------------------------------------------------
by tikyuu_2006
| 2014-10-13 11:13
| エネルギー、環境
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