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「メタンハイドレートにダマされるな」(その2) 週刊文春

「メタンハイドレートにダマされるな」
初代調査委員長:緊急警告 石井吉徳東大名誉教授週刊文春2013年4月4日

「メタンハイドレートは資源ではありません」
 こう断言するのは、資源開発工学が専門の石井吉徳東京大学名誉教授だ。
 安倍晋三首相は成長戦略の一つにメタンハイドレートを位置づけ、二月の施政方針演説でも触れているが、かつて開発の基礎研究に中心的に携わっていた石井氏は、この安倍政権の方針に真っ向から異を唱える。

 三月十二日、経産省は愛知県沖の深海で実施していた次世代エネルギー資源「メタ
ンハイドレート」の産出試験で、約十二万立方メートルのメタン産出に成功したと発表しました。茂木敏光経産大臣が「思ったより出るね」と会見で発言し、新聞やテレビも「世界初の成功」と大きく報じていますが、ダマされてはいけません。
 アベノミクスの成長戦略を実現するためには大量のエネルギーが必要になります。二年前の原発事故で原子力への不安が高じたこともあり、メタンハイドレートへの期待が高まっているわけですが、メタンハイドレートは決して石油や原子力の替わりにはなりません。二十年程前に資源開発の当事者としてメタンハイドレートに携わった私は、残念ながらそう判断せざるを得ないのです。

 メタンハイドレートとは、メタンガスと水が低温高圧の状態で結びついてメタンの水和物、結晶化し、シャーベット状になった固体です。地表で点火すると燃えるため、「燃える氷」とも呼ばれています。低温高圧の条件を備えた永久凍土地帯や深海の海底面下にあり、日本近海にも大量に存在するとされています。存在自体は古くから海洋地質学者の間で広く知られていましたが、国際的にエネルギー資源としては捉えられてはいませんでした。

 日本で本格的にメタンハイドレートの調査研究が始まったのは九〇年代前半です。当時、通産省の外郭団体のエネルギー総合工学研究所で、メタンハイドレートが資源かどうかを整理するための調査委員会が立ち上がりました。東京ガスや大阪ガス、通産省の地質調査所(当時)、大学教授など、総勢四十人ほどの大きな委員会です。当時の私は、東大工学部資源開発工学科教授としてその調査委員会で委員長を務めました。委員会では「欧米に追従するだけではなく日本独自の調査研究をやろう」という見解でした。その頃、メタンハイドレートの海洋地質学的な研究が最も進んでいたアメリカのウッズホール海洋研究所にも調査団として足を運びました。

年間予算百億円の公共事業

 アメリカの研究者はそれをエネルギー資源とは見ていませんでしたが、メタンの量としては、普通のガス田と比べて地球上にはるかに大量にあることもわかりました。そうした調査を踏まえ、私は通産省に「百億円くらいのお金を使って、実用可能かどうか白黒をつけてもいいのではないか」と考え、調査レポートも提出しました。
 アメリカの研究者が否定的だったのに、私が「ひょっとして」と思ったのは、メタンハイドレートの下部では地温が高くなるため、フリーガスの可能性があると思ったからです。そうであればボーリングして普通のガス田と同じように生産できるかもしれない、その掘削調査などに、100億円程度のかけてもよいと思いました。でも結局そのようなゾーンはなかったようです。固体のままでは、そこからメタンを分離するのに相当のエネルギーが必要になります。「これはダメだな」と思ったのものです。私の中では初期の掘削で白黒はついたのです。
 
ところが、その後もメタンハイドレートの研究は毎年百億円も予算が使われる公共事業と化してしまった。政府機関や関連企業に旨味があったからでしょう。当時は全国で鉱山の閉鎖が相次ぎ、関連会社は不況に喘いでいた。そういう会社、研究者がこれに群がった。残念ながら私の教え子、東大の教員クラスもこれに加わりました。私が反対意見を述べても多勢に無勢でした。
 結局、年間予算百億円程が二十年も続き総額で二千億円規模の税金が使われたようです。日本の公共事業にはブレーキもバックギアが付いていないんですね。これが民間のプロジェクトなら、五年続けて成果がなければ中止するでしょう。
 
そもそもメタンハイドレートは通常の油田やガス田から産出される「在来型」のエネルギー源ではありません。しかもアメリカで話題になっている「非在来型」の「シェールガス」とは違い、これまでに商業生産されたためしがない。メタンハイドレートの商業生産を信じている人たちは、資源やエネルギーの「質」を理解していないのです。資源とは、効率よく採取するために濃縮されていなければならないのです。つまり、資源は「量」ではなくて「質」がすべてなのです。
 
資源かどうかの見極めは、エネルギー収支比を見ればわかります。通常のガス田ならば掘削すればガスが自噴しますが、メタンハイドレートは固体です。まずは固体からメタンガスを遊離しなければならず、そのためには相当のエネルギーが必要になる。入力エネルギーを1とした場合、油田の初期なら100の出力エネルギーがあるのに対し、メタンハイドレートはガス化にエネルギーが必要ですからエネルギー収支比は1以下、経済性がまったくないでしょう。ちなみにシェールガスの出力エネルギーは5程度とされています。

商業化など夢のまた夢

 私はこれまで大学で学生に「資源は量じゃなくて質がすべて」と繰り返し教えてきました。経産省にも、今回の産出試験の事業主体であるJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)にも教え子がいますが、やはり官僚になると官僚の論理になってしまうのでしょうか。
 
JOGMECは、二〇〇八年にカナダの永久凍土地帯で地下の浅い所のメタンハイドレート層からメタンガスを連続的に産出することに成功したとして、まるで連続生産しているかのような映像を流しました。冬の永久凍土地帯ですから浅い層であっても暖めて圧力を下げればメタンガスは出てくる。それをタンクに溜め、やぐらの上から火をつけた。いつでも実用化ができるような映像が流され、それ以来、メタンハイドレートが大きく注目されたという経緯があります。しかし、忘れてならないのは、投入したエネルギーと出力エネルギーの収支比:EPR(Energy Profit Ratio)で評価することです。
 
経産省は二〇一八年度までに商業化に向けた生産技術を確立すると言っています
が不可能でしょう。それは技術開発の問題ではない、あと五年でエネルギー収支比を飛躍的に高めることは出来ません、商業化など夢のまた夢です。地球は有限、資源は質が全て、人は自然の恵みで生かされているのです。

「メタンハイドレートにダマされるな」(その1) 週刊文春記事
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by tikyuu_2006 | 2013-04-13 14:45 | これからの日本
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